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つぶや記 243
   日本人と夕日

   童謡では「夕焼け小焼けの赤トンボ・・・・・・」と歌い、乃木将軍は「斜陽に立つ」、高杉晋作は「落花斜日」と詠み、太宰治は『斜陽』という名作を遺しています。
   日本人は夕日、夕焼け、斜陽、落日という言葉が好きですね。わたくしも、朝日と夕日どちらが好きかと訊かれたら、迷わず夕日だと答えます。
   わたくし、若いころ、アフリカから船で帰国したことがあり、北半球のいろいろな海の水平線に落ちて行く夕日を見ました。砂漠の落日も見ました。  
   南下船団に入って、スエズ運河をのろのろとくだる船の右舷から、砂の丘に吸われる夕陽もありました。灼けた風紋の斜面を登ってゆく駱駝の隊商が影絵となり、「砂漠に日が落ちて、夜となるころ・・・・・・」というだれかの歌声とともに記憶に残っています。
   船の後部甲板に椅子をすえ、手帖を片手に落日の光景を文章でスケッチし、作品に活かしたりもしました。その一節を読んでいただきます。

 

― 夕焼けは、どこで見ても、
旅人の目には、かなしい色をしていた。
大西洋上で、サハラ砂漠沖で、
スエズ運河、アデン湾、インド洋で、
帰国の船路は、
夕日ばかりを見てきたような気がする。
夕焼けは、決して同じ色を、
同じかたちで見せなかった。
海況、雲の配置、気象の変化によって、
すべての日暮れは、
さまざまな姿態で、
ぼくの眼前にあらわれた。
夕映えの雲が、
湖面のような海に浮かんでいる。
巨きな円板となって落下する夕日が、
海に没するとき、
水平線は刃物のように
わずかな時間かがやきを増した。
雲が、煌めきながら、南に流れる。
太陽が底深く沈むにつれて、
空の明るみは、逆にひろがってゆき、
東の空までも、茜色に染めあげた。
空が徐々に光を失うと、
海の紺碧はたちまち暗紫色に変わり、
やがてビロードの闇にくるまれて
空と海は、一つになる。
  ・・・・・・・・・・・・(『正午位置』文藝春秋)

 
響灘を詠んだ短歌をひとつ紹介します。


       ひびき灘落日   森重香代子
    巌上にいこへる鷹に直射して炸裂弾のやうなる落暉

 

   響灘の夕日を、下関市安岡の防風林越しに望む響灘が見せてくれることがあります。本州で最後に見る日本海の荘厳な夕焼けです。この沿岸に建つ病院は天然の医療を備えているといえます。ところで安岡海岸に大規模な風力発電所ができるそうですが、響灘の夕日という大資源が失われないようにくれぐれもお願いしたいものであります。
                                                                              (古川 薫) 

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