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つぶや記 231
  ミニホールでの講演

   田中絹代ぶんか館のミニホールの定員は詰めて50人、小講演には手ごろの会場です。さまざまな集会に利用され、多彩な機能を果たしています。
   このホールで文化財団主催により、わたくしが講師となって年4回(今年から2回になります)映画に関する「勉強会」をやっています。いわばミニ講演といった形式で1時間半話をします。
   聴講者は毎回15人、多くても20人前後です。新年度初の勉強会は「モノクローム映画とカラー映画」のテーマで話しました。映像芸術としての映画は、世界的にもモノクローム映画時代の1950年前後、日本では小津安二郎の『晩春』、溝口健二の『西鶴一代女』、ヨーロッパではジャン・コクトーの『オルフェ』、ルネ・クレマンの『禁じられた遊び』、キャロル・リードの『第三の男』などで頂点に達したのではないかとの持論を展開しました。
   その日、聴衆の1人に老人といえる年配の男性がいて最後尾の椅子に坐り、物憂げな表情で聴き入るかと思えば、居眠りする姿勢となり、わたくしの話が聴くに堪えないということを精一杯パフォーマンスして、やがて席を立ち帰ってしまいました。
   数少ない人たちの中での行動なので、たいへん目立つのです。わたくしは時に頼まれて講演しますが、話し終わってから気持ちがスッキリすることは滅多にありません。自己嫌悪に悩むこともしばしばです。そんならやらなきゃいいのに、多くの場合断れなくて承知します。自分の話を聞きたい人がいるかぎり、演壇に立つのは表現者としての義務ではないかという気持ちもあります。
   しかしこんどの勉強会でのあの老人の仕打ちに、これまでになくわたくしは傷つきました。翌々日になってもユーウツでした。何気なく開いた読売新聞の朝刊下関版にわたしの写真が載っているので、おどろき目を移すと、ミニホールでの勉強会の記事でした。聴衆の中に記者さんがまじっていたのです。
   聴衆15人のささやかな勉強会を取り上げたその記事には、かなり詳しく話の内容が紹介してありました。わたくしは感謝かつ満足しましたが、それだけではなく、心はいっぺんに五月晴れとなりました。
   わたくしは田中絹代ぶんか館の名誉館長でもあるのだが、聴衆15人を相手の講演であのようにも不愉快で悲しい思いまでして、勉強会を続けることはないじゃないか、などという考えはすっかり振り払い、今は次回の勉強会のテーマは何にしようかと思案しています。人をなぐさめ、落ち込んだ者を励ます新聞記事もあるんですね。私事に類することではありますが、あえて書いておくことにしました。
                                                                               (古川 薫)

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