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つぶや記 228
  作家の地方定住と夏樹静子さん

   福岡市の桜が咲き始めたというニュースと一緒に、夏樹静子さんの訃報が飛び込んできたのです。わたくしの仕事場ではついこの前、拙著の出版記念と卒寿の会に夏樹さんが送ってくれた造花の薔薇を詰めた透明のフラワー・ケースが、机上をかざったばかりでした。
   この半年のあいだに、50年来親しくしてきた二人の作家が、ばたばたと逝ってしまいました。佐木隆三氏とは約束通りわたくしが弔辞を読みました。約束というのは、酔ったまぎれにに言った戯言(ざれごと)が本当になって、悲しみと悔いに今も心を噛まれています。
   むろん夏樹静子さんとそんな約束をした覚えはありませんが、なぜか弔辞の役がわたくしにまわってきました。願ってもないことなので、少し長めになりましたが、シラノ流に思いのたけを述べさせてもらいました。
   夏樹さんは1973年、『蒸発』で日本推理作家協会賞、以後フランスの文学賞を受賞するなど眩しいばかりの華麗な活躍ぶりでした。西国三人衆こと白石一郎、滝口康彦、そしてわたくしと夏樹さんとのつきあいも前後して始まりました。
  文化の東京一極集中時代、夏樹さんが福岡に腰を落ちつけて活動をしている姿に、土着の奮闘をしているわたくしたちが、どれほど励まされ、癒されたことか。
   東京の出版社の編集者たちが夏樹さんを訪ねて、頻繁に福岡にやってくるようになり、その流れが下関にも向けられてきたのです。作家の地方定住という新しい文化情況は、夏樹静子さんから始まったと言ってよいでしょう。
   その後、白石一郎、高樹のぶ子、杉本章子、村田喜代子といった芥川賞・直木賞受賞者が、申し合わせたように福岡の郷里に腰を据え、受賞者が東京に出て行くのはめずらしくなりました。この新しい文化情況は、このごろよく言われる地方創生にひとつの力を添えることになるでしょう。
   その功績を遺して社会派推理の大御所、日本のアガサ・クリスティーといわれた夏樹さんが亡くなられました。77歳ですが、若々しい美人作家の惜しまれる死でした。合掌。
                                                                              (古川 薫)

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