トップ > 名誉館長のつぶや記 > 名誉館長のつぶや記227 惻隠の心無きは人に非ざる也

つぶや記 227
  惻隠の心無きは人に非ざる也

  「お前は中学1年生のとき万引きをやったから、推薦入学はできない。万引きのことは、内申書にも書いておくからな。仕方がないんだ」 ― 「因果応報というものだ」まさかそこまでは言わなかったでしょうが、中学校の進路指導で5回も繰り返し担当教師から、そう告げられたそうです。少年にとって死刑の宣告、それも5回にわたる宣告です。そして少年は自殺した。
  内申書というものが、罷り通っています。これは何でしょうか。高校側からの選抜の資料として要望されていることに中学校側が応じている以外にない個人情報の売り渡しです。原則としては提出を拒否できる性質のものです。
  江戸時代には「凶状」、現代では「身分帳」が罪を犯した者に終身つきまとう「前科の記録」です。生涯の運命を決める非人道的な個人情報にひとしい入試の内申書について、いっぺんの疑いも出ていないのが不思議です。
  封建時代には、その罪状を消さないために、腕に入れ墨をしました。「入れ墨者」「凶状持ち」として差別されました。
  21世紀を生きるこの少年は、自分の身に理不尽につきまとう「前科」の影に暗然と心を噛まれたのでしょうか。哀れでなりません。子供を保護すべき教育行政が、組織ぐるみその任務を放棄した悲しい現実です。
  「惻隠(そくいん・いたわしく思うこと)の心無きは人に非ざる也」とは有名な孟子の言葉ですが、このたび広島県下で生起したこの事件は徹底的な解明が望まれます。
  それにしても公立高校入試テストが実施された日に合わせた事件の公表にも心が痛みました。その日の夕方、民放テレビのほとんどが予備校の先生によるテスト解答例をやっていました。その裏のニュースでの自殺事件報道です。
  春のこの時期は親も子も憂鬱な受験シーズンになります。試験は嫌なものです。わたくしなど若返らせてやろうといわれても、試験々々で追いまくられる日々のことを思うと、結構だと言いたくなります。試験はやはり地獄でした。
  このごろは大学や高校の推薦入試があります。試験を敬遠する心理からも歓迎され、広がりつつあるのですが、このたびの自殺事件にもその推薦入試がからんでいます。どこまでいっても地獄がつきまとう。だからこそ上に立つ関係者の人間性、つまりは惻隠の情が必要なのです。
  春雪に若き命を疑わず
                                                                                   (古川 薫)

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