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つぶや記 234
  針のムシロ

   ここで取り上げるべきことではないと思っていたのですが、ああも連日テレビで騒がれっぱなしであってみれば、つぶや記でもひとこと言ってみたくなりました。
   ある国会議員の先生から聞いたのですが、Mさんはリオのオリンピック開会式に日本代表で出たいばかりに頑張っているのだと、永田町ではもっぱらの噂だったそうです。あまりにも「セコイ」話です。志が低すぎるじゃありませんか。
   その程度のことで、あの針のムシロの重圧に耐え、呻きながら知らぬ存ぜぬを通していたとは不思議でなりませんが、あの人にとってはなにものにも代えがたい重大事なのでしょうか。最高学府を出て、国際政治学者として人々の尊敬を集めていた人にしては信じられない成り行きでありますが、木更津のホテルの話を聞いていると、人にはやはり意外な性癖があって、それがみずから作る陥穽(かんせい)となって落ち込むものだと、妙に納得してしまうのです。
   つまりこういうことです。家族で豪華な新年のホテル・ライフを楽しんだ。自分の財布から支払うのが嫌で、政治資金からの支出にしたところをチェックされ問いつめられた。正直に謝っておけば、追及はされたでしょうが一応はそこで決着したはずです。
   ところが咄嗟に部屋で会議をしたんだと言いのがれたために、問題が大きくこじれはじめ、モメゴトの好きなテレビの餌食にされたのでした。策士策に溺れてあれこれと前言を翻すうちに、ますます嘘っぽい話になってしまい、よってたかって袋だたきにされる悲惨を絵にかいたような仕儀となったのです。
   詭弁派Sophistは頭のよい人らしいですが、あまり好ましいタイプの人間ではないようです。八方からの質問責めを、詭弁に詭弁をかさねて斬り返す奮闘ぶりも見ものでしたが、そのたびに馬脚を表して行くのが気の毒でした。ソクラテスは、質問を重ねることによって詭弁学派を論破したそうです。こんどの場合、それを実証してくれました。
   「丹波篠山山家の猿が花のお江戸で芝居する」  わたくしがしばらく暮らした篠山の「デカンショ節」です。Mさんは福岡だそうですが、花のお江戸で大芝居していなさる姿は、残酷な針のムシロに、人間はどこまで耐えられるかを実験する残酷物語でした。ひょっとしてMさんは、「釈放」されて、めでたくリオ・オリンピック開会式へのゴールインを果たすかと、わたくしの関心はそこにありましたが、やはり詭弁学派の敗北に終わりました。すべからず詭弁を弄する政治家は退治しなければなりません。
                                                                               (古川 薫)

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