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つぶや記 208
昭和流行歌考現学

   田中絹代ぶんか館のミニホールで、月1回ひらかれていた石川秀さんの昭和流行歌をレコードで聴く会が、通算200回を区切りに終わりました。下関市立図書館での会場を、田中絹代ぶんか館に移して5年、毎月休みなくつづいてきたのですが、石川さんの体調不振ということで無期休会とは残念です。石川さんには、ご苦労さまでしたと申し上げます。
   17年間、3000曲を、石川さんが収集されたSPレコードを蓄音機にかけて、その歌が流行した時代背景、歌手、作曲など成立の事情を解説する講義が好評で多くのファンを集めました。
   昭和のロマン、エロ・グロ・ナンセンス、ジャズ、戦争、軍歌、戦後の混乱、飢餓、復興、バブル経済・・・・・・あらゆる世相、喜怒哀楽が流行歌に反映されました。長期にわたるこのユニークな講座は、全国的にも例を見ないもので、蓄音機・レコードの研究による業績が認められて石川さんは山口県文化功労者の表彰を受けておられます。
   最終回の講座は昭和期の下関で歌われ、レコードになった今で言う「ご当地ソング」の鑑賞でした。おどろいたのは14曲にのぼる流行歌・音頭などの多彩さであり、それも吉田正、西條八十といった著名人の作詞、名の売れた歌手による吹き込みにまじって下関在住の作詞家、検番芸者の歌声もにぎやかに、博多と肩をならべる港町下関の繁栄ぶりが、なつかしいSPレコードの音色に乗って再現されるのでした。
   石川さんの解説のすばらしさは、流行歌の周辺にある社会、文化状況に連想が拡大されることです。例えば公募された作詞の撰者として西條八十が来関すると知って、当時童謡詩人として芽を出し始めていた金子みすゞが駆け付け下関駅で、自分の才能を認め、作品を推奨してやまなかった恩師との感激の対面を果たしました。
   日本の文学史にも遺る西條八十と天才的童謡詩人金子みすゞとの出会いの瞬間も、石川さんは描き出してくれました。そのときから3年後、昭和5年(1930)3月10日、みすゞは自殺したのでした。西條八十は深い悲しみとともに、みすゞの死を惜しんでいます。わたくしは美しい才媛を死に追いやった下関の無知な男を憎悪します。
   さてこのように見てくると石川さんの仕事は、ある社会現象を組織的に調査して世相を分析する考現学 modernology つまりは、「昭和流行歌考現学」というほどの深い広がりを持っていることに、わたくしは気づきました。石川さんの1日も早いご回復とレコードを聴く会の再開を祈るばかりです。
                                                                              (古川 薫)

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