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つぶや記 191
カネより大事な忠兵衛さん

   「論理学」の講義をうけたころのこと、ある日突然、先生が「カネより大事な忠兵衛さん」と、いきなり妙な声色をだして学生をびっくりさせました。
   50年前の大学ではそんな講義をする先生もいたのです。
   「概念とは何か」というテーマで話が進んでいる途中、初老の教授らしいサプライズでした。近松門左衛門作の浄瑠璃『冥途の飛脚(めいどのひきゃく)』に出てくる遊女梅川のセリフです。飛脚屋・亀屋の養子で店の公金300両を横領、梅川を身請けするという大罪を犯した忠兵衛との死出の道行きが哀切に語られます。
   ちなみに「概念」を広辞苑で引いてみると、「概念は言語に表現され、その意味として存在する。(略)経験される多くの事物に共通の内容をとりだし(抽象)、個々の事物にのみ属する偶然的な性質を捨てる(捨象)ことによる・・・・・・」なかなかややこしいのですが、要するにこうです。
   「世の中で最も価値があるのはお金である」というのが、貧しい家の犠牲になって遊女に身を落とした梅川における概念だった。ところが忠兵衛との愛にめざめてから、梅川の概念は「世の中には金より大事なものがあるのだ」と転換した。「概念とは判断を言葉にしたもの」と覚えています。
   先日来「政治とカネ」の問題がメディアを賑わしているので、こんなことも思い出してしまいました。「カネより大事な忠兵衛さん」、このごろの政治家の概念はどうなっているんでしょうね。
                                                                               (古川 薫)

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