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つぶや記 182
雪原に立つ黒衣の美女

  5月末から6月1日にかけて催された下関の海峡映画祭で、わたくしは「映画『青い山脈』とその時代」と題してのトークを担当しました。お相手は梅光学院大学の倉本教授でした。
  映画『青い山脈』は1949年(昭和24年)7月の封切で、同名の主題歌とともに大ヒットした戦後の記念碑的作品です。西條八十作詞の主題歌の一節「古い上衣よさようなら」は、戦争に明け暮れた戦前の暗い時代への決別と自由を得た新時代を謳歌する当時の高揚した国民の思潮を象徴しています。
  原作は2年前、石坂洋次郎が朝日新聞に連載した『青い山脈』で、これが戦後復活した新聞連載小説の第1号です。テレビのない時代で、老いも若きもよく本を読み、新聞を読んだころです。始まった新聞小説は翌日の朝刊を待ちわびて熟読したものでした。
  わたくしの記憶では、間もなく始まった大仏次郎の『宗像姉妹』で、突然ハンス・カストルプという青年の名が出てきます。これがノーベル賞をとったトーマス・マンの『魔の山』の主人公であることを知るきっかけになるなど、新聞小説は世界文学啓蒙の使命をも果たしたといえます。
  そもそも夏目漱石はじめ明治の文豪が筆を執った新聞小説は、むかしも今も日本独特のもので、欧米にもそれらしいジャンルがないわけではありませんが、わが国ほどの盛行は見られないという一種不思議な新聞と文学と大衆の連結です。

  さて話は少し飛躍しますが、海峡映画祭のトークで、わたくしはずいぶん以前に見た原節子が黒衣で雪原に立っている場面は、どの作品なのか思い出せないという雑談をしたのです。数日して、その画像を添えた無署名の手紙をいただきました。それはドストエフスキイの『白痴』を黒澤明が監督した同名作品(松竹)のヒロインを演じた原節子が、黒衣にくるまって北海道の雪原に立っている、まさに雪と謎の美女の絶景であります。そのまま掲載すると著作権などの問題がありますので、へたなスケッチをこころみました。感じを汲み取ってください。
                                                                             (古川 薫)

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