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つぶや記 173
  新春第一交響曲

   ベートーヴェン第九交響曲は、昨年末も全国津々浦々で響きわたりました。ベートーヴェン大好き日本の風物詩です。
   下関の綾羅木に住んでいたある男性が昭和20年8月15日の夜、灯火管制が解除され、あかあかと部屋の電灯をつけて、平和の喜びをまず満喫した。戦争を体験した人なら、だれもが味わった終戦初夜の歓喜です。歓喜といえば、その男性は思いついて、電気蓄音機のボリュームをいっぱいに上げて、「第九交響曲」を高らかに響かせたというのです。
   ゆく年くる年、テレビから流れでる名刹の除夜の鐘を聴く感慨とは、まるで違う深刻な「第九」の味だったでしょう。大音響のシンフォニーに聞き入っていたら、隣り組の班長さんが、わめきながら飛び込んできた。
「おい、非国民、戦争が終わったからちゅうて、すぐに敵性音楽をかき鳴らすとは何事か」というのでした。
「何をいうか、これはベートーヴェンだ。ベートーヴェンはドイツの音楽家だぞ。ドイツは三国協定の友好国ちゅうことをしらんのか」と怒鳴り返したら、すごすごと帰ったそうです。そんな悲喜劇もありました。
   この正月、わたくしは思いついて、ベートーヴェンの第一交響曲を、古びたLP再生機にかけて聴いてみました。「年末に第九なら、新年に第一を聴いたらよいじゃないか。うるさいおじさんが殴り込んでくるわけもなし」と、針音のするなつかしい響きに耳をかたむけたのですが、さほどの感興がわきませんでした。元旦、これを聴く人がいない理由がわかりました。
   1801年の初演のときも、不評だったそうです。音楽評論家氏の説明によると、「第一楽章の序奏部が不協和音ではじまることに問題があった」由。なんだか2014年、政財界の不協和音を暗示しているようです。しかし「この和音の中からハ長調の序奏主題が導かれ、アレグロ・コン・ブリオからアダージオ・モルトへ、ゆるやかな光明が発見される」とあります。ベートーヴェン午どしの辻占いは、中吉というところですか。
                                                                          (古川 薫)

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