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つぶや記 158
愛・これでも美しいのか

日曜日の午後、下関シーモールの映画館シアター・ゼロで映画を観ました。そとはゲリラ豪雨でした。
フランス映画『愛、アムール』は、第65回カンヌ国際映画祭で最高賞にかがやき、アカデミー賞も獲得したヒューマン・ドラマですが、老々介護の果てに、妻を殺し自分も自殺するという極限の愛妻物語です。
こういう作品では定評のあるミヒャエル・ハネケ監督のものは省略が多く、観客に緊張と思考の集中を要求する手法なので、それもまた効果的で重厚な印象が残りました。
女性介護士が登場します。乱暴な手つきで重病の床にいる老婦人の髪にブラシをかけ、きれいになったでしょうと、鏡を突きつける。夫がそういう扱いに抗議すると、「クタバレ、クソジジイ」と捨て台詞して帰って行く。すべてがそうであるはずはないが、たまにはそんな人間もいるのかなあと暗い気持ちになってしまいます。映画ではそれもひとつの契機となって老人は「死」を決意します。実年齢も80歳を超えているという役者の迫真の演技でした。この老夫婦はかつて音楽家として活躍し、蓄財もあって高級なマンションに住んでいます。悲劇はその中で起こります。想定した生活苦のない高級なオブラートでつつんだ環境での悲劇を、映画は粛々と描いて、その成り行きをいやおうなく納得させ、悲しい共感に観客を引き込んでいくのです。
老々介護の果てのこのような悲劇は決してめずらしくはないといえます。老いの未来の選択肢に「委託殺人」ないし「自死」がひそむもっと悲惨な現実を肯定するかのようなこの映画を、敢えて美しいヒューマン・ドラマと呼ぶには、いささかの迷いを感じながら、胸を締め付けられました。
(古川 薫)

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