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つぶや記 155
<詩> 赤江さんの幕の下ろし方

 僕らはまだ季節風地帯に埋もれた陸影の一点に、
 肩をすぼめて遠い文壇に敵意の目を投げかけていたのだ。
 そのころNHKローカルにラジオ・ドラマを書いたり、
 同人雑誌に晦渋な散文詩を載せている
 長谷川敬という詩人の名を知ったのは、
 1970年、いやそれ以前だったか。

 あなたは関門海峡の上空、降りそそぐ光の中にいて
 鮮烈な春の風を、わななきながら待っている寡黙な美青年だった。
 僕らはしかし、本州最果ての地殻に垂らした透明な根から
 不逞な野心を吸いつづけていたのだが、
 あなたは従兄弟の長谷川修につづいて、
 赤江瀑のペンネームで小説世界に進出し、
 たちまち僕を追い抜いて行ってしまった。

 あのころ「瀑さんは、世阿弥と取り組んでいる」と聞いた。
 赤江美学と謳われるあやかしの、妖艶の、濃密の文章が
 展開する風姿花伝の世界に幻惑される日を、
 僕たちどれほど待っていたことか。

 ある日、あなたは永遠の幽玄の世界に、突如消えてしまった。
 まったく老いを感じさせなかった
 美形の面影と共に『赤江花伝』という幻の名作を
 遺したのは、いかにもあなたらしい、
 あやかしの芝居の幕の下ろし方だった。  (古川 薫)


  赤江瀑 「美の世界」 展

平成25年6月4日(火)~16日(日)/ 下関市立美術館

 

下関市文化振興財団
下関市近代先人顕彰館 田中絹代ぶんか館

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