トップ > 名誉館長のつぶや記 > 名誉館長のつぶや記152 三国連太郎さんのこと

つぶや記 152
三国連太郎さんのこと

三国連太郎さんが亡くなったというニュースは、わたくしにとって、あるドラマの終わりを告げる訃報でした。私事にわたることで恐縮ですが、わたくしの処女作『走狗』の主人公・大楽源太郎のイメージは、三国連太郎さんでした。
この長州出身の暗殺者を書くとき、人物のイメージを、俳優三国連太郎を一貫して仮想したのです。長身剽悍な体躯で、どこか茫洋とした風貌が、わたくしの描こうとする暗殺者大楽源太郎にぴったりでした。
源太郎は萩の人、藩士ではなく陪臣です。儒者で豊後の咸宜園にまなび、かなりの学者であり、攘夷派の志士としても知られていました。京都に出て、幕府側の絵師・冷泉為恭を暗殺、名を挙げたのち帰郷して諸隊を起こしたりしていましたが、周防吉敷郡台道(大道)に私塾「西山書屋」をひらき付近の若者に教えながら明治を迎えました。源太郎の門下には後の内閣総理大臣・寺内正毅がいます。
源太郎は儒者としての信念をまげず、欧化思想の新政府を批判、明治3年の脱隊兵騒動の扇動者、また大村益次郎暗殺教唆の容疑で政府に追われて九州に逃げ、初め久留米藩が擁護しましたが、政府の追及をおそれた久留米藩の手で暗殺されました。わたくしは数奇の運命をたどる暗殺者のイメージを、三国さんに仮託して『走狗』という短編にしたのです。
映画化の話が来たら、原作者として出演をお願いしようと、待ちつづけたのですが、この作品は直木賞に落選して、映画化の夢は消えてしまいました。
それでもいつかと、ひそかに待機しているうちに三国さんも老いていきます。「いや、まだまだ演れる」と待つこと茫々半世紀、その間、雑誌「中央公論」のグラビアにわたくしの書斎が載り、同じ号で三国連太郎さんの書斎も載ったので、奇しき縁とばかりに手紙を書こうかと思ったのですが、やはり気後れして、あれから10年も経ったでしょうか。その意中の人は、ついにこの世を去り、まぼろしの映画は完全に薄明の幕をおろしたのでした。
(古川 薫)

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