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つぶや記 120
  不滅の愛染かつら

   BSテレビで『愛染かつら』をやっていました。もう何度観たことでしょう。5、6回近くになるだろうと思いますが、こんどもまた観てしまいました。
   田中絹代ぶんか館の関係者だからというのではなく、1映画ファンとしての感想です。とにかく面白いのですよ。話の筋は暗記するほど承知の上で、それでも面白いというのは、歌舞伎がそうですし、あるいは忠臣蔵を作り変え、作り変えて正月興行にしていた映画がそうでした。時空を超えて日本人の心を揺さぶるものがあるからでしょう。
   同じことは宮本武蔵にもいえます。吉川英治原作の『宮本武蔵』は、禁欲的に精励する武蔵の姿が、戦時中の日本人社会に受け入れられ、どうかすると国策映画じみた役割を果たしましたが、今見ても特別時代に迎合する臭いはありません。ただ忠臣蔵や宮本武蔵は、役者が入れ替わり立ち代わって、新たな関心を集めるのですが、『愛染かつら』は田中絹代と上原謙という主人公は固定したままで、人気をささえているという不思議さがあります。
   ことしは巌流島の決闘から400年というので、いろいろと記念の行事が行われましたが、今のところ新しい宮本武蔵が現れそうな動きはなく、テレビでもリヴァイヴァルで宮本武蔵を放映する予定も聞いていません。
   すると『愛染かつら』だけが、特別の存在をつづけいている理由は何かです。素朴な構成、素朴な演技、素朴な技術で作った70年前の白黒映画に、現代人が心惹かれるは、その素朴な純愛にあるのかも知れません。デジタル化のエーテルに全身を浸そうとしている現代人が、アナログ時代の純愛に魅せられるのです。だれかが叫んだセリフを借りて言うなら『愛染かつら』は不滅です。
                                                                           (古川 薫)

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