名誉館長 古川 薫(ふるかわかおる)
古川 薫(ふるかわかおる)
大正14(1925)年6月5日~平成30年5月5日 下関市大坪町 生まれ |
山口大学教育学部卒業後、中学校教諭、山口新聞編集局長、企画室長を経て、文筆生活に入る。平成3年藤原義江を描いた「漂泊者のアリア」で第104回直木賞受賞。著書は「暗殺の森」、「花も嵐も女優・田中絹代の生涯」、「斜陽に立つ」など多数。 『花も嵐も女優・田中絹代の生涯』 |
『漂白者のアリア』 |
『斜陽に立つ』 |
女優田中絹代の光と影
女優は齢をとりません。生涯の最も美しい風姿を永遠にとどめる特権をもっています。
「田中絹代ぶんか館」にも絹代の華麗な足跡を証する遺品が、郷土の誇らかな雰囲気につつまれるように展示されています。
父亡きあとの家族を、小学生だった幼い絹代が支えた苦悩 ―それは銀幕の女王として脚光を浴びてからも終生つきまとったのですが―を物語るよすがは、大阪楽天地の少女琵琶歌劇団時代に撮った不鮮明な写真だけに限られています。そこにひそむ女優 田中絹代の光と影の部分を、わたくしたちが決して見逃さないのは、長い旅を終わり、一家を引きつれて下関の墓におさまった彼女にそそぐ郷土人としてのいたわりと親愛の情というものでしょう。この先人顕彰館に飾られている多くの文芸家の業績が、その人々の人生の闘いの結実であることも、田中絹代の生涯と軌を一にするものといえましょう。
わたくしは現役最高齢のゆえをもって、初代名誉館長を命じられました。新しく生まれ変わった館の床を踏んで、こんな言葉を思い浮かべたのです。
「人生は旅だ。途上の旅人が詩人となるように、どんな人生も
一篇のすぐれた詩であるだろう」と。